刺 繍
刺繍の役割は、金彩と同様、友禅染を一層豪華に美しく仕上げるための加工です。
なかでも京都で加工される刺繍のことを古くから「京繍〈キョウヌイ〉」と呼び、すぐれた技術の蓄積がある最高品として、他のものと区別していました。現在では、そういった区別も薄れ、刺繍の総称として「京繍」と呼ぶ場合もあります。
刺繍はその良さが、誰にでもわかりやすく、針と糸で自在に模様を描いていけるということから、なじみやすい技法といえるでしょう。しかしその反面、刺繍する人の感覚、技量によって出来上がりの良し悪しが明確に表れる技法ともいえるでしょう。

刺繍の道具類
針と糸
刺繍に用いる針は、繊細な技法のため、わずかな違いで使い分けます。その種類は約15種、細い方から順に、極細〈ゴクボソ〉・大細〈オオボソ〉・切付〈キリツケ〉・天細〈テンボソ〉・相細〈アイボソ〉に分類します。これらの針は皆、一本ずつ手作りです。よく使われる針は、切付前後の針です。
 刺繍に用いる糸は絹糸ですが、色糸の他に金糸・銀糸・漆糸・金平箔糸・銀平箔糸などがあります。
生地張り
刺繍加工は、専用の生地張り台で生地をきっちり張ってから行います。生地張りには、台張りと角枠張り、台枠張りがありますが、いずれにせよ、張り上げた時に生地目が斜めにならないよう注意します。縦・横両方の張りがちょうどよい具合になるようにはることが大切です。

<ポイント>
台張りとは、通常、繍台(刺繍台)といわれる台を用いる張り方で、小幅の生地を張るようになっています。台張りは、まず繍台の両端にある樋棒〈ヒイボウ〉の溝穴に生地を通し、次に樋棒をまわして生地を巻き込み、さらに樋棒を固定して生地の縦方向を張ります。そして繍台枠に巻きつけながら、生地の耳にかがり糸を通して、横方向も張ります。台張りは京繍の基本となるものなので、きっちり張れるように練習しましょう。
繍加工は、糸の種類に応じて針を選ぶことから始まります。針の運びは、左手の親指と中指で挟んで持ち、生地裏から表へ刺し通します。そして生地表から右手の親指と中指で針をつまんで引き抜き、糸をたぐります。それを繰り返し進めていきます。
駒使い
駒使いは、金糸や銀糸、駒撚り糸を置き糸にし、それを別の糸でとじつけていく技法です。置糸はあらかじめ木で作った駒といわれる道具に巻いておきます。置き糸は通常、2駒(2本)ずつとじますが、1駒(1本)でとじる場合もあり、2駒使うものを本駒、1駒使うものを片駒と呼んでいます。
とじ糸は、置き糸の4分の1以下の細い糸を使い、置き糸の太さに合わせて1〜5ミリくらいの間隔でとじていきます。
置き糸を模様に合わせ、とじ糸でゆがまないようにとめることが大切です。

仕上げ
縫い上がった生地は台に張ったまま、ビロード裂で糸ぼこりを十分にぬぐい去ります。その後生地の裏からデンプン糊を模様の部分に薄く塗り、さらに水抜きするか、水を軽く噴霧します。そしてアイロンをかけ、乾燥すれば台からはずし、完了です。