糊 置 |
青花で描かれた下絵の線をデンプン糊やゴム糊などの防染剤に置きかえていく工程です。これがしっかりできていないと、後々悪影響を及ぼし、不完全な作品になってしまうので、大変重要な工程といえるでしょう。
技法をいえば、下絵に沿って、糊を置いていくわけですが、ただ線をなぞるだけでなく、下絵の良さを引き出し、不十分なところは補うくらいの力量が必要です。そのためには、下絵制作者と同じくらいの絵心を持ち、約束事をすべて心得ていなければならないといえるでしょう。 |
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糸目糊の道具類 |
糊置をする場合、仮絵羽をほどき、最初に伸子で生地をしっかり張っておくことが大切です。生地の張りが中途半端だと、糊が生地のシボの上に乗っているだけの状態となり、乾燥するとはがれてしまいます。生地の組織を広げて、その中にまで防染糊をくい込ませられるように、強くピンと張ります。
<ポイント>
生地を張る道具を伸子〈シンシ〉といい、生地をピンと張ることを伸子掛けをするといいます。伸子掛けをした生地が、ゆがんだり、耳(生地の幅端)がひきつっていないかよく点検します。ゆがみは、掛ける位置のバランスがくずれている時に生じますので掛け直しましょう。
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糸目糊を置くのには、渋紙で作った小筒と、先の細い先金を使います。その筒に糊を入れて絞り出していくのですが、細くて一定した糊が置けるまでには、かなりの練習が必要です。
小筒の持ち方は、鉛筆や筆とは異なり、人差し指の第一関節と第二間接の間に、筒の先より4〜5センチ上の部分を置くように持ちます。
筒の角度は生地に対して45度くらいの傾きで、先金で生地の表面を軽く押さえるようにして移動させます。この時、下絵の線が見えるように、できるだけ線と直角になるように筒を移動させます。 |
<ポイント>
細くて一定した糊を置くためには、先金の穴を小さくするだけでなく、筒に加える親指の力加減や、移動させる速度を一定に保つことが必要です。
筒に入れる糊の量は、必要最小量にとどめます。その量は、筒を指で押さえる部分より少し上が適当でしょう。また、糊の中に空気が入っていると、途中で途切れてしまうので、事前に空気を抜いておきましょう。筒に糊を足す場合も同様で、残っている糊は全て絞り出してから足します。
<ポイント>
糸目糊は細い方が美しく見えますが、防染という役目が第一です。防染力を保つためには一定の量〈カサ〉(厚みのこと)が必要です。一定の量を保つためには、糊の固さや、筒を移動させる速度もおのずと決まってきます。
<ポイント>
仮絵羽縫いをしたキモノの場合、縫い代の部分へ、模様を2〜3センチ(5〜6分)ほど延長して描きます。糊置の段階できっちり行ないましょう。
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糊置が完成すば、下絵で描いた青花を落とします。ゴム糊を使って糊置した場合は、大きな水槽に生地を浸けて洗い落とします。10分ほど浸けておくときれいに流れますので、よくゆすいで水槽から引き上げます。この時タオルなどをはさんで巻き取るようにするといいでしょう。タオルで十分に水分を吸い取らせてから、日陰でダラ干しにします。竿に掛けた部分を時々変えながら乾燥させます。
水槽に浸けたり、引き上げたりする時、シワにならないように、細心の注意をはらいましょう。
ゴム糊で糸目糊置をした場合、青花ちらしを終え乾燥すれば、生地の裏から軽く揮発油を噴霧します。これは、ゴム糊を生地の中まで浸透させ、防染効果をいっそう高めるために行なうものなので、糸目の部分の糊を少し溶かせばいいのですから、軽く行なうことが大切です。
噴霧した後は、生地を振って速く蒸発乾燥させます。揮発油が生地に長く付着していると、ゴム糊が吸収しすぎて太くなるので速やかに乾燥させましょう。
<ポイント>
青花ちらしの後、糊の置き忘れがないかよく確認しましょう。青花とゴム糊は、よく似た青のために、発見しにくいものですが、青花ちらしの後なら、わかりやすいので、忘れがないかよく点検しましょう。
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伏せ糊の道具類 |
伏糊は、地色を染める際、模様の部分に色が入るのを防ぐために必要な工程です。この工程は、糸目糊との小さな隙間も見落とすことなく伏せていかなければならないので、細かな気配りが必要な工程といえるでしょう。
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最初は、糸目に沿ってその内側を隙間があかないように、伏糊を置いていきます。この時使用する筒は、糸目糊の時に使用したものと同形ですが、先金はそれよりも穴が大きく、出口の部分が斜めにカットされています。その斜めの部分を生地に密着させるように用い、糸目糊のラインに沿って移動させると共に、小さく円を描くような運動を加えます。絞り出された伏糊を前に押し出し、糸目糊にかぶせるようなつもりで置けば良いでしょう。
伏糊置においても、糸目糊置と同様に、一定のかさ(量)が必要です。特にふちくくりの部分は、糸目糊の倍以上のかさが必要となります。
<ポイント>
ふちくくりができれば、模様の中を伏せていきますが、伏せる部分が広い時は、中央から伏せていきます。
模様の中に伏糊を置いていきます。これに用いる筒は平筒といい、20〜25センチほどの長さの大きな筒です。先金は、3センチほどの幅の広い口を持った平金を使用します。この筒の扱い方は、糸目糊の時と同じ要領で、親指ではさむように持ちますが、筒を下に向けていると糊が自然に流れ出てくるので注意しましょう。伏糊する場所に移動させるまで横に向けておきます。
この筒で伏糊する場合は、原則として小筒とは逆方向の右から左へ移動させます。
<ポイント>
伏糊置の技法には、ふちくくり、ベタ伏せ、その間を伏せる鉄砲伏せなどがあります。
伏糊が終われば、糊に含まれている空気を抜きます。これを「泡抜き」といい、表面に浮き出た気泡を棕櫚〈シュロ〉などの手ぼうきで、軽く掃くようにして行います。糊がやわらかいうちなら、気泡の穴を糊が自然に埋めていきますが、固くなると、気泡はつぶれても、その部分が穴となって残るので、染料が浸透する危険性が非常に高くなります。糊が固くなりそうなら、伏糊の途中でも泡抜きを行いましょう。
泡抜きが終われば、糊が乾燥しないうちに、全体に挽粉をふりかけます。そして生地を傾けて裏から軽くたたき、糊面にだけ挽粉を残し、余分な挽粉は落とします。
また、糊が乾燥している場合は、ごく軽く水を噴霧し、糊をやわらかくしてから行います。
<ポイント>
挽粉は木材を製材する時に出るオガクズを篩〈フルイ〉にかけて、細かい粒子だけを選らんだものです。
挽粉には、糊の表面を保護する働きがあります。これは、後に行う引染や蒸しの工程の時、糊がやわらかく戻って、他の生地に触れたりかすったりして、付着する「打合い」を防ぐために必要な工程です。
伏糊の工程の最後に、裏から水を噴霧します。これは、糸目糊で行った「揮発地入れ」と同様、糊を生地の中にまで浸透させるために行うもので、水量が多いと糊に含まれている塩分がにじみ出したりして、悪影響を及ぼすことになるので注意しましょう。ごく少量の水を軽く噴霧します。
<ポイント>
裏吹水が終われば、生地を自然乾燥させます。この時生地は、できるだけ水平を保つようにします。生地が傾いていると、糊が片寄ったり、糸目を越えて流れ出す危険もあるので特に気をつけましょう。伏糊の乾燥状態は、半乾燥程度が適当です。(耳たぶくらいの固さ)
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