江戸時代後期の特色ある文様に「御所解文様 」「江戸解文様 」と呼ばれるものがあります。どちらも、公家や武家の大奥、大名の奥向きの女性用の正装で、四季の草花を細やかに配し、一見風景文様と見えるものです。この名称は、近年になってつけられたもので、本来は、身分の高い女性には、キモノ全体に文様のある物を用いるところから、「総文様」と呼び、文様も次第に軽くなって、「右袖がかりの腰高文様 」、「裾文様 」などと呼ばれるようになりました。
風景文様と見える総文様も細部に注目すれば、山中の殿舎、鳥籠、飛びゆく子雀、御所車に蓑笠などの景物が見られ、これらは『源氏物語』や謡曲などをふまえた文芸文様に分類されることと気づきます。 いずれにしても、武家女性の日本の古典文芸に対する豊かな教養をうかがわせる文様です。しかし、その本来の意味は次第に失われ、単なる四季の草花で埋められた意匠となっていきました。 「御所解 」「江戸解 」の名称のおこりについては、明治維新を迎えて、公家や武家女中の伝統的な小袖類を、引き解いて売却されたからという説があります。
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